Projects
Gut-Brain Interaction
腸は第2の脳と言われ、脳と腸は腸内細菌叢を介して相互的コミュニケーションを行っていることが分かっています(脳-腸相関:Gut-Brain Interaction)。精神科領域では、うつ病や不安障害、神経発達障害の腸内細菌が健常人と異なり、腸内環境を変化させることで気分や行動が改善することがわかっています。しかし、食事も文化も異なる日本国内における知見はまだまだ不足しています。慶應義塾大学の当プロジェクトチームでは、様々な研究機関や病院と協力し、国内における脳-腸相関についての知見を集め、脳と腸の双方的アプローチによる検証で、将来精神科領域の診断や治療に役に立てるために、以下のような研究に取り組んでいます。
1.過敏性腸症候群(IBS)を対象に、糞便微生物移植の介入前後の気分変化の観察研究。
2.うつ病、不安症を対象に、治療前後の症状の変化と腸内細菌叢の変化の観察研究。
3.自閉症スペクトラム、注意欠如・多動性障害を対象に、腸内細菌叢のDNAや代謝産物の観察研究。
Neuromodulationに関連した領域横断型研究
脳内の神経ネットワーク間の情報伝達は電気活動と化学物質(神経伝達物質)が担っています。 向精神薬は主に化学物質に働きかけますが精神・神経疾患の治療はそれだけでは十分ではないことがわかっています。 近年の技術発達により、脳神経の電気的活動を修飾することにより精神・神経疾患の診断補助や治療に役立てる試みが世界中で行われています。例えば、経頭蓋磁気刺激 (transcranial magnetic stimulation: TMS)、電気けいれん療法 (electroconvulsive therapy: ECT)、脳深部刺激 (deep brain stimulation: DBS)などがあります。現在、我々はECTに関する以下の研究を進めています。
1.電気けいれん療法に関する神経画像・神経生理学的検査の解析
ECTの脳の構造と機能に与える影響を、主に頭部MRI、脳波、NIRSを用いて解析しています。
ECTの治療反応予測因子の探索、作用機序の解明とより低侵襲のneuromodulationへの応用を目的としています。
2.電気けいれん療法に関するアンケート調査
ECTを受けられた患者さんとその家族に対して、その体験・満足度等に関するアンケート調査を行っています。
これからECTを受けられる患者さんとその家族への情報提供に役立てることを目的としています。
3.電気けいれん療法の最適な麻酔法の検討
ECTは麻酔方法によりその治療効果や認知機能への影響が変わる事がわかっています。
慶應義塾大学医学部麻酔科学教室との連携により、ECTに適した麻酔法の検討を行っています。
ウェアラブル脳波計による精神疾患評価
脳波を用いた脳の機能の評価は従来行われていますが、密閉した空間で長時間寝たままで検査する必要があり簡便ではないこと、またどうしても情報量が限られる、といった問題がありました。本研究ではヘアバンド式の簡易型ウェアラブル脳波計に最新のノイズ除去技術や機械学習を組み合わせることで、新しい病状の評価方法の開発を行っています。病院だけでなく自宅でも簡単に脳波を計測し,その状態を記録・保存・転送することで,客観的にうつ病の判定とその程度を知ることができるシステムの完成を目指しています。
精神科イノベーションに関連したELSI【Ethical, Legal and Social Issues】
新しい領域においてイノベーションを起こし、社会に受け入れられ広がっていくためには、ELSI(倫理的、法的、社会的課題)に関する検討も不可欠です。本プロジェクトでは、人文・社会科学の研究者らとともに、先進的な技術を持つ他分野と精神医学の融合に伴う、個人情報保護や知的財産権等の法政策上の課題をはじめ、産学官共同研究のあり方や、人権的な問題・経済的な問題等、幅広いテーマで研究を行っています。